第6章 この気持ちを噛みころす
「私、及川さんのバレー」
「は!!?」
「性格の悪さがプレイにでてて、面白いです」
なまえが珍しいことを言ったもんなので、ボールを落としてしまった。元気にバウンドしたボールが、俺の足元に転がる。なんでこんなに動揺したのか。平静を装いながら「それ褒めてんの」とちゃかした。
「飛雄とはまたちがう感じで、」
なまえの口から、飛雄の名前がでた。
今まで俺といるときは1度も出さなかったのに。俺の表情が曇ったのに気づいたのか、なまえは途中で口をつぐんで眉を寄せた。
「…なんですか。別に比べたわけじゃないですよ」
「べっつにー。どうせ天才君にはかないませんよ」
「及川さん、飛雄のこと嫌いですね」
「……大キライ」
なんとも思ってないような顔で、なまえは「そうですか」とうなづいた。別に、飛雄の名前がでてくるのはしょうがないことだ。むしろ今まで出てこなかったのが不自然であって。ある意味共通の話題なのだから。
頭ではわかっているのに、なんだかもやもやして。お前は飛雄が好きなんだろうけどねって言葉が喉まで出かかった。…いっそ聞いてしまえばいいのに。今でも飛雄が好きなのかって。
俺にとってはどうでもいいことなのに、なんで答えを聞くのがこわいと思ってしまうんだろう。