第5章 一歩ずつ進む
「なまえちゃんって、バカでしょう」
「は?及川さんに言われるなんて心外です」
もはや毎朝訪れるのが日課になっているんじゃないかと思われるなまえの教室。俺は威圧的に腕を組み、仏頂面でなまえを見下ろした。俺の胸までしか身長のない彼女も、それでも精一杯かわいくない顔で睨んできた。
なぜ朝からこんな険悪なムードなのか。答えは簡単だ。
「じゃあ、なんで電話でてくんないのさ!」
「就寝時間にかけてこないでください」
「寝るの早すぎでしょ!しょうがないじゃん、部活なんだから!」
「知りませんよ。こちとらお風呂はいったらもうオヤスミ3秒なんですよ」
こうだ。
せっかく携帯電話をあげたというのに。あんなに喜んでたくせに。こいつは全く携帯電話を携帯してくれない。意味がない。しかも学校にいる間は電源を切っておくとか言い出したので、本当にバカだ。バカ、バカ。原始人。
俺は人目も気にせず、なまえに文句を垂れた。
なまえは素直ですぐ納得するようなところがある反面、基本ケンカは買うスタイルで一歩も譲らないときがある。それはまさに今のように、頑固になるのだ。
「メールも返してくれないし!」
「む、メールは返してますよ!」
「三行のメールに、一言ね!」
「及川さんのメール、用件がわからなくて苛々するんです」
こんにゃろう。
昨日は、笑った顔が可愛いだなんて思ってしまったが。とんだ気の迷いだった。こんなのは俺の大好きな女の子なんかじゃない。むむ、とお互いに睨み合う。