第4章 目に焼きついた
「あれ…いない。」
残念なことになまえの教室は誰ひとりおらず、がらんとしていた。ふと黒板を見れば、チョークで書かれた「実験室へ」の文字。なるほど、1限から教室移動だったのか。ふー、とため息。携帯があればなぁ。こんなすれ違いはないはずなのに。実験室まで行く気にもならず、俺は諦めて帰った。
どうせ昼休みに会えるんだから、そのときでいいか。
「え?なんて?」
「なまえ、今日日直なので先生に呼ばれてますよ。及川先輩に、お昼も向こうで食べるって言っといてって伝言されました」
「…そうなんだ」
待望の昼休み。再度忘れられるのがこわくて教室まで迎えに行ってみたが、この有様である。いや、伝言しといてくれただけマシか。少なくとも約束を覚えていたのだから。「ありがとう」と微笑むと、目の前の女の子は頬を赤らめてうつむいた。可愛い。そう、これが普通の女の子の反応だろう。久しぶりに味わったような気がしたが、あの子の無関心さが異常なのだ。
まわりの1年生の子たちにも声をかけられ、ご満悦の俺はまた教室をあとにした。放課後でいいか。部活の前に、またここにこよう。