第4章 目に焼きついた
「何やってんの、及川」
「いいんだよ花巻、そいつはほっとけ」
朝の部活終了後。したたる汗をタオルで拭いながら、俺は真新しい携帯電話を手に握っていた。マッキーと岩ちゃんの言葉はとりあえずスルー。今は携帯の設定画面とにらめっこだ。自分のではないので勝手がよくわからないが、携帯なんて似たようなもんだろう。
「よし、できた!」
「及川さん、携帯変えたんですか」
「ちがうよ金田一。俺のじゃない」
「はぁ…?」
「これは可哀想な原始人に与えるものだ」
はぁ、と金田一はさらにわからないという表情をした。まぁ、わからなくていい。俺は満足だ。やっとあの子に現代機器を渡すことができる。あの子とはもちろん、なまえのこと。俺はわざわざ昨日の放課後、彼女のために携帯ショップに足を運んだのだ。0円スマフォだけど、何はともあれこれで連絡手段をつくることができた。
「昭和じゃあるまいし、家にかけて気まずい思いなんかしたくないもんね!」
「別にかけなきゃいいだろ、電話なんて」
「岩ちゃんにはわかんないと思うけど、男女は夜の電話で距離を縮めたりするものなのだよ。岩ちゃんにはわかんないと思うけど」
「てめえ」
ゲンコツが降ってきた。
岩ちゃんのこの、すぐ暴力で訴えるところは直すべきだ。暴力反対。
俺たちふたりの会話を聞いて、なんとなく他の子も察したようだ。「ああ、彼女ですか」と国見ちゃんが着替えながら声を漏らした。君たちもよく知っている子だよとは少し言いづらかったので、相手についてはあえて黙っていることにした。
「こいつ、なまえと付き合ってんだと」
と思ったら、岩ちゃんに言われてしまった。
なまえを知っている元北川第一の奴らは、少し驚いたようだ。
「…意外ですね!」
「確かになまえちゃん、可愛かったけど、及川のタイプじゃなくね?」
「ていうか彼女とかつくってんじゃねーよ、死ね」
「誰だ今の!ただの悪口じゃんか!」
全く、男の嫉妬は見苦しい。
俺は「じゃあ、お先に」とカバンを手にとると、一足早く部室を出た。このプレゼントを彼女に渡すためだ。俺はなんて良い彼氏なんだろう。こっそり自画自賛しつつ、1年生の教室に向かうのだった。