第1章 出会いは春の風と共に。
遠慮がちに声をかけると、漸くコックリさん達も
その存在を思い出したようで。
「信楽さん、その女の人は、誰なのですか?」
「おお、今さっき昼飯を一緒に食う約束をしたんだ。」
「え!?私、まだOKしたわけじゃ…」
さらり、という信楽に慌てふためく娘だったが
「迷惑かけたし、いっぱい作ったから食べてってくれ。
こういうのは、大勢いた方が楽しいしな!」
立ち直ったコックリさんにニッコリ笑って言われると
暫し迷っていた様子だったが、未だに手を握っていた
信楽に導かれるような形でおずおず、といった感じに
ゴザに腰を下ろした。
「我が君の分を減らさないでいただきたいのですが」
既に座っていた狗神から、そんな声が飛ぶと
(ガスッ!)
「お前は余計な事を言うんじゃない!」
コックリさんから鉄拳も飛ぶ。
「あ、本当に作りすぎたくらいだから気にしないで
どんどん食べてってくれよ。」
笑顔で包みをほどき、重箱を並べるコックリさん。
「あの、本当に、いいんですか…?
私なんて、さっきここでお会いしたばっかりで…」
言いながら、そわそわと腰を浮かせようとする娘を
制止するように手を引く信楽。
「狐がああ言ってるんだからいいんだよ。」
「コックリさんは、作った料理を残されると凹むので
面倒くさいのです。
人がたくさんいた方が便利なのです。」
「面倒って…!だって、折角作ったものだし、
美味しくたくさん食べてもらいたいじゃないか。」
そう言いつつ重箱を並べ終わったコックリさんが
次々に蓋を開いていく。
「うわぁ…!」
ここで、グルメ漫画だったりすれば
(シャラララ、キラキラキラ☆)
とか
(ピカーーーーーーッ!)
なんて光ったりしながら登場するんだろうが
そんな事はなく。
しかし、朝の4時から気合いを入れて、入れまくって
作られたお弁当は、豪華ではないものの、
彩りにも気を使われ、また、手が込んでいるな、と
感じさせられるものばかりで。
「本っ当に美味しそうですね…!」
先ほど、思わず感嘆の声を漏らした娘は
キラキラと目を輝かせコックリさんと弁当に笑顔を見せた。
「そんなに褒められると照れるな…。
じゃんじゃん食べてくれよ。」
嬉しそうなコックリさん。
箸や皿なども配り終わり、ジュースもつぎ終わった所で
「いただきまーす!」
