第1章 出会いは春の風と共に。
「お前は!場所取りしないで何やってるんだ!
この万年色情狸!」
頭を半分地面にめり込ませた信楽に
ガミガミとお説教モードのコックリさん。
「本当にすみません!このアホ狸が
何か迷惑とか、かけてないですか!?」
何回も頭を下げるコックリさんと、
今やかなり目線を下げた場所に居る信楽、
(でも、手は離さない)
ゆっくり歩いてきたこひなと狗神を
呆然と見ていた娘だったが
「あ…、いえ。今のところ、まだ大丈夫でした。」
手を顔の前で振り、気にしないで下さい、と
言いつつ『今のところ』
『まだ』な辺りが微妙だったが。
「何だよ、狐まで俺を変質者扱いかよ。
おじさん、傷ついちゃうー。」
痛ってて、などと頭を振りながら
むくりと起き上った信楽。
「綺麗な花を愛でるのは、男のサガだ!」
胸をはって言うべきことだろうか。
「本当の『花』なら、男に限った事じゃないけどな。」
ぼそり。ガーデニングが趣味なコックリさん♂
(職業:主婦)です。※誤字ではありません。
「…で?もう一回聞くけど、場所取りしないで
何やってたんだよ。」
「場所取りならしてたぜ?ほらほら。」
言いつつ、信楽が指さす先を見れば、しっかり
ござが敷かれていて。
そして、その上に土足で上がりこんでいたコックリさん。
「うわっ!すまない!気が付かなかった!
てっきり、場所取りしないで遊んでるもんだと思って!」
慌てて飛びのき、ゴザの上に入った砂を手で払っていると
「狐どの、普段人には汚すなとかなんとか言うくせに
自分の事は棚上げとは…」
「コックリさん、足元はよくみて歩いたほうが
いいと思うのです。」
「き、気がつかなかったんだから仕方ないだろー!?」
ふぅー、と大仰にため息をつくオーバーリアクションな
狗神と、子供に注意するかのようなこひなに
言い返しながらもしっかり凹むコックリさんでした。
「まーまー、誰でも間違いはあるもんさ。気にすんな。」
「お・ま・え・の・せいだろうがーーー!」
凹んだコックリさんに油をそそぐ信楽。
そんな、いつもの漫才のような光景だけど
見慣れない人からすれば、まあ、呆気にとられるのだろう。
暫し、存在を忘れられていた娘。
「あのー…私、帰ってもいいですか。」