第1章 出会いは春の風と共に。
大きなため息をついた後、娘は信楽を見上げ
「…で?何の用ですか?あからさまに怪しい人。」
「だから、俺は怪しくないって。
通りすがりのただのおじさんだぜ。」
「自分から『怪しい人です』って名乗る
怪しい人は居ない…って、何してるんですか。」
よっこいしょ、とその場にゴザを敷き、
座り込んだ信楽を、今度は僅かに見下ろす。
「何って、花見の場所取りよ。
おじさん、元々場所取りのために来たんだけど
だったら綺麗な花が揃ってる所の方がいいからな。」
言いながら、既に酒盛り体勢な信楽。
「場所取りって…わざわざここにしなくても
他にもいい場所はいくらでもあるじゃないですか。」
娘の言う通り、人は来始めてはいるが
まだ余裕のある感じの公園内。
他にもいくらでも場所はありそうだ。
「ま、桜を見るだけならどこでもいいんだけど
もっと綺麗な花を見つけたんだな、おじさんは。」
「?」
怪訝そうな顔を浮かべる娘に、笑みを向け
「お嬢さんみたいに綺麗な花は、そうないだろ。」
「失礼します。」
速攻フラレ坊主。
椅子を片付けようとする娘。
その手を掴み、
「まーまー。俺は本心で言ってるんだぜ。
それに、一人で花を見るより、みんなで眺めた方が
より楽しめると思うけどな。
もう少しで狐の弁当も届くと思うし。
一緒に食べようぜ。」
ナンパ続行。
プロのヒモは、ちょっとやそっとじゃ挫けません。
「いえ、結構です。
それに、知らない方にご馳走になるわけには」
(ぐぅきゅうるるうぎょきゅるるぅ)
ご馳走に、まで言った辺りで被せ気味に
盛大に鳴ったお腹の音で、娘の顔は真っ赤になった。
「………。」
「…ほら、腹は正直だ。一緒に食おうぜ、な?」
真っ赤になった娘へと、さらに畳みかける狸、信楽。
「いや…でも…。」
と、そこに。
「あー、いたいた!信楽!
ちゃんと場所取りしといてくれたか?」
ぞろぞろとコックリさん達がやってきた。
手に携えられた、特大&何段にも重ねられたであろう
お重が入っているらしい風呂敷包みが目立つ。
「おお、こっちだこっち!」
娘の手を握ったまま、もう片方の手を
コックリさん達へと振る信楽。
そんな信楽を発見したコックリさん。
お弁当持ったまま猛ダッシュです。
(ごすっ!!)
「ごふぁっ!?」
鉄拳制裁入りました。
