第1章 1
男だと確認したくもなる特徴的な話し方は人懐こい印象を受けるが赤司には必要のないものであったし、本人も赤司と同じく周囲からの好感を得るためのものであったので実質バスケ部のトップらの間に絆が生まれずともいいと考えた。むしろ利己的で目的重視な赤司とは上手く付き合っていける気さえした。監督は人と形を知っていたからこそ自分を副主将へと任命したのだろうかと勘繰ってしまいそうだ。
「征十郎だから、せいちゃんね!決めた、今日からそう呼ぶわ」
それでも癖と化した従来の過ごし方を変えることなど出来ず、仮に出来たとしても二人きりの場でない限りは表に出す機会もないだろう。周囲に気配を悟られる失態などご免だ。笑顔の裏に隠された本心は異なれど現状二人は似たものがあった。勝手に決められた当人が何を感じたのか、好きに呼んでくれて構わないと告げてすぐ、可愛いと聞こえた声で思い出されるのは鮮やかな桜。バスケに携わる者だとは思っていたが、まさか関わり深いマネージャーであろうとは思わなんだ。洛山高校のバスケ部には部員の数に見合っただけのマネージャーが存在する。その中に彼女も含まれていると事前にコーチらから受け取った資料から分かってはいたが、数多くからピンポイントでレギュラーのサポートを担うことになろうと流石の赤司も想像していなかった。同じ部員なのだから可能性の一つとして考えてはいたものの確率は低い。その確立を飛び越えて選抜された彼女は単に運がいいのか、それとも実力か。中学時代、才能を余すことなく発揮した有能であったマネージャーを思い出す。もしこちら側であるのならば力を示し魅せてほしいと口の端を上げた赤司は、再び魅入る瞬間を欲して彼女を見つめた。
「せいちゃんって私も呼ばせて?気に入っちゃった」
紅と橙の二色が細められ自分を愛称で呼ぶ彼女を捕える。天帝と呼ばれる両の眼が映すものはただ一つ。
「私はみょうじなまえ。マネージャーとして皆さんと励みます」
よろしくお願いします、と丁寧に腰を折った彼女、みょうじに習って、ならば、と赤司が微笑んだのは変わらず紳士そのもの。