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【合同企画】らしくない【洛山高校】

第1章 1


スポーツの中でも特にバスケットに力を入れている学校であると有名なことであろうが、興味がない限り新入生の中に専用体育館があると知っている者はそういないはず。在校生でもない彼女がこの場を正しく知っているということは、同じくバスケに携わる者という答えに到達する。
「僕が正式に部員となれるのは、もう少し後になりますが」
 これで自分も新入生だと知れたはずだ。通常であれば返ってくる反応は決まっている。同意を示す言葉だ。
 予想が覆ることなく、同じだ!と元気な声が空間に響いた。ほら、誘導など簡単なことだと赤司が満足気に笑うが初めて出会う同学年に興奮した様子で距離を詰める彼女が知ることはない。まだ入学式が行われる前で、本来であれば仮に出会ったとしても数日後のはずだったのだ。たまたま訪れた日に同じ学年の生徒と鉢合わせるなど奇跡に等しい。遭遇した場所が場所なだけに、感動は募るばかりだろう。男性と比べて特に女性はロマンチックな傾向にあると赤司は過去学んでいる。これもお家柄のことだが、この年で知る必要もなかったはずだと当時子供ながらに、いや、子供だからこそげんなりと気落ちした覚えがあった。きっと爛々と輝く瞳を向けて一直線に突き進んでくる彼女も他の女性と変わらないだろうと、女からすれば失礼極まりない感想を零しつつ出会ったばかりの生徒を見る。感情がすぐに表れるこの女生徒は内面をひた隠す自分とは大違いで、対照的な存在だと認識した。相入れることはないと判断して目前にやってきた彼女が嬉しそうににっこりと笑う。やはり桜のようだとは、思ってすぐに打ち消した。
「私もね、今年入学するの!バスケ部に入部希望!」
 よろしくね、と無邪気に笑う彼女の背後で風を受け入れた桜がまた一つ舞う。遮断された空間に開け放たれた扉から送り込まれた風が桜を撫でては舞っていくのを見届けて、やはり、と同じことを思う自分はきっとどうかしている。思いながらも綻ぶ顔は桜が原因であると思いたいところだ。いや、思わなければ。
「よろしく」
 願いを言葉に込めたが効くのかどうか、定かではなかった。後に抑制された願いに効果はないのだと赤司は知ることになる。信じたくはないが、信じる他にない。あの時あの場所で、彼女に恋をしたのだと。
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