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【合同企画】らしくない【洛山高校】

第1章 1


 そうして迷うことなく辿り着いた赤司は流石だ、さも知った場所のように足を止めて目を泳がせる素振りなど一度も見せずに、正門を潜り、校舎へと体を滑らせ、廊下を渡りきった先には体育館がある。慣れているわけではないが構造はしっかり頭の中に叩き込んである赤司が知らない場などないに等しいが、やはりそこは見知らぬ地。体育館に着けば真っ先に目に入るのは設備だと思っていたのだが、開け放たれたままの重い扉からひらりひらりと時折姿を見せる春の姿に視線を奪われた。確かこの先には何もなかったはずだと記憶した校内地図を脳内で広げながら歩を進めた赤司が捕えたのは風に揺られて己を零す一本の桜の木の下に佇む一人の女性。吹き抜ける風に髪が踊りはっきりとは見えない顔を何故か綺麗だと感じたのは直感だ。美醜は問わなかった、ただこの光景を美しいと、柄にもなく感嘆してしまった赤司は尚も眺めつつくだらないと一人ごちる。もう一人の自分であれば素直に受け入れる感性であろうが、今の自分には心の底からどうでもよく関心のないことだった。それでも目を背けられないのは、痺れたように動けないのは何故か。いや、正確に言うのならば動けなかったのではなく、動きたくなかった。自分が動いてしまえば崩れてしまう絵を眺めていたいと、そう思った己を馬鹿らしいと叱咤するも赤司が体を動かすことはない。魅入っているのは桜か、女性か、分かりはしなかったし、それもまたどちらでも構わない。重要なのは魅入っている事態そのもの。
 覗いた扉の向こうには庭と言うには狭い少しのスペースがあった。その空間を有効利用してのことなのかは知るよしもないが、一本の太い桜の木が埋まっている。体育館と校舎に囲まれて静かに咲く花はあまり風に煽られることがないようで、日差しの問題もあり少々遅めの開花を果たし長く命を繋げているらしかったとは観察した赤司の憶測だが間違ってはいないだろう。事実他の桜は四月を入ってすぐ新たに色付く準備に入っていた。今花をつけている桜は数少ない中満開を誇るとは、この桜は稀だ。同時に絶景と言える穴場であるだろう。バスケ部のみが使用する体育館で、通路でもない扉を開ける者など少ないと予想される。赤司も先客がいなければ気付くのが遅れただろうが、気付かなかっただろうとは思わない。彼にかかれば然して時間をかけずにいずれ知れたことだっただろう。
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