第1章 1
季節が変わったばかりの春。中学校の卒業を終えた赤司征十郎は名残りをみせることもなく早い段階で東京を離れていた。向かいやってきたのは、過去日本の首都に定められ遷都まで長い歴史を誇る、観光地でも有名な京都。四季により顔を変え都を彩る様は今も人の心を揺さぶるほどの風情があり、訪れる足が絶えることはない。かと言って赤司も観光にやってきたのか、と言われたら否。春から通う学舎が住んで親しい東京から遠く離れていたためにこうして遠路訪れたのである。つまり、彼が新しい学生生活を送る場は京都であった。進学先は近場にも選ぶほどあったにも関わらずわざわざ別宅での暮らしを決意してまで京都を選んだのは他でもない、バスケの強豪校であるからだ。帝王と言われるほどの実力を何年にも渡って見せつけるバスケ部を置くのは洛山高校。現在五年連続で三大タイトルを獲得している強さは、まさに帝王の二つ名に相応しいと言えよう。だからこそ選んだ京都だ、観光客で賑わい風情のある街並みを楽しむ素振りは一切見られない。目的地に向かって一心に足を運ぶ赤司が目指すのは真新しい住まいではなく、入学が間近に迫った件の洛山高校だった。何故入学前に向かっているのか、と聞かれればただの興味本位だ。これから毎日通うことになる学舎が如何なものか気になるのは勿論、それ以上にバスケ部が所属する体育館の下見が一番の目的である。既に主将を任されている赤司には必要な行為だろう。昼時の今であればきっと部員も練習に励んでいる時刻のはず、上手くいけば部内の雰囲気や練習傾向も目に出来よう。上手くいかずとも施設をゆっくりと見て回れる時間が取れるだけなので何も問題はなかった。赤司にとって不都合など一つもない。