第1章 作戦会議、但し相手は
残念なことに、この流れを不本意だと思っているのは水戸部本人のみで、その水戸部はしかしこの小さな騒ぎを収める術を持っていなかった。おろおろと小金井に助けを請う視線をやるが、伝わったのだろうか。
「C組の天海―――」
全く伝わっていなかった。
慌てて小金井の口を塞ぐも既に時遅し。周囲からニヤニヤと厭らしい視線が水戸部に集まる。
「ほほーう。天海ねえ……」
「水戸部はああいうタイプが好きなのかー」
「へえええー。天海、ねえええ」
「抱きしめ“たい”“タイ”プ、か……」
「伊月は黙れ?」
だらだらだらと嫌な汗が水戸部の全身から吹き出す。
そして次の瞬間、小金井の一言でますますこの場から消えたくなる。
「でも天海ってそんなに胸おっきくなくない?」
シン……と静寂が目に見えた気がした。
「えっ何、水戸部は貧乳派なのか……?」
聞かれて水戸部はぶんぶんと首を全力で横に振るが
「やっぱりでかいほうがいいよな!」
この問いにも全力で否定する。
「はっは、女子の胸なんて手のひらに収まるくらいあればちょうどいいだろ」
再びの、静寂。
「木吉お前今の一言でうちの学校の女子半分は敵に回したぞ」
「間違いなく監督には絞められるぞ」
「えー? そうか?」
「お前の! 手のサイズに収まる乳は規格外だろ!!!」
「はっはっは、大袈裟だなあ」
なんとか自分から会話の中心が逸れただろうかと水戸部がそろりと逃げ出そうとする、が。
「まあ逃げんなよ水戸部」
主将の無意味に鋭い眼光が突き刺さる。
「詳しく聞かせろよ。色々と、さ!」
この日の練習は浮き足立った二年生のみ、三倍メニューが追加された。