第8章 応援
「天海も吹いたの? なんだっけ? トランペットだっけ?」
「そうだよ」
小金井に尋ねられ、ななは昨日の音を思い出す。
(青い空に吸い込まれてくみたいで、やっぱ外で吹くと気持ちよかったなあ)
口の端が少し緩んだのを見逃さなかったのは、……水戸部だ。
「あー、水戸部、やきもちだ!」
「!!!」
むぐ、と小金井の口を慌てて塞ぐ。
「やきもち……?」
ななが不思議そうに見るも、水戸部は慌てたように首を横に振るばかりだし、小金井は水戸部に口を塞がれて苦しそうにもがいている。
「……水戸部、小金井、死ぬ」
ななに言われ、はっと気付いたように水戸部は小金井の口から手を離し、ぜえはあと荒い呼吸を繰り返すその背を撫でてやる。
「で、やきもちって、なによ」
なおも食い下がるななに、水戸部は困ったように隣を見、その視線を受けた小金井はまだ少し苦しそうながらにやにやと言葉を繋げる。
「野球部は、天海のトランペットで応援してもらってていいなあってことだよ」
「……別に、吹部だし、どこの学校もそうでしょ? てか、バスケ部は屋内だし吹部の応援入るとか無理……」
「じゃ、なーくーて!」
鈍いなあ、と呟いて。
「天海の、応援が、羨ましいってことだよ!」
そうだろ水戸部、と俯く友人の横腹に肘を入れる。
「あたしの、応援……」
少し考えて。まさか、と自意識過剰な考えにななは自分でびっくりしながら水戸部を見る、と。
その顔の赤さに、また、驚いた。
(う、そだあ……)
口には出さず。口に出してしまったらなんだかこの目の前の相手を傷つけてしまいそうな気が、したから。
だから。
「……次に、さ」
自分の顔も赤くなっていることに気付かず、ななはひとつの約束を、する。
「次に、試合、見に行ける試合があったら、……応援、行くから」
その言葉に水戸部が小さく微笑んで、嬉しそうに頷いたのを、親友の小金井は満足そうに見つめていた。