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水戸部短編詰め合わせ

第7章 一つ遠くの


 想像通りというかなんというか。覚悟した以上に暇なままお昼のピークタイムに入る。が、一向にピークが訪れず、店長とエリアマネージャーがスタッフルームで額をつきあわせているのを横目にレジも一台の稼働だけでなんの支障もなく時間が過ぎていった。
(もう帰りたいわ……)
 今の時間はいつもならあと二人はシフトに入っているはずが、今日は店長がいることもあり、一人だけが昼前に出勤してきた。しかし、その人もあまりの暇さに店回りの掃除やゴミ回収をのんびりやっている状況だ。
 その時自動ドアが開く音がしてレジ回りの備品整理をしていたななは顔を上げて「いらっしゃいませー」と声をかける。ドアの方を見ると
(あ、目があった)
近くの高校の制服姿。目があった瞬間、ほっとしたような表情になったのはなんだろう。その後ろからもう一人。その手には、オープンしたてのライバル店の袋が提げられていた。
「ねー、こっちまでこなくたってよくね? せっかく近くにできたのにさー」
 しごく当たり前の、けれどこの場所で言うのかという失礼な発言をしながら、そしてそれには答えないまま、二人の男子高生は店の奥にあるドリンク棚へ進んでいった。
 よく見る子だよな、とななはぼんやり思う。身長が高いことと声を聞いたことがないことが印象に強い。コンビニなんて喋らなくても大概の用は足せるが、友達と一緒に来ていても声を聞かないというのが不思議だった。
 そんなことを考えていると、目の前が微かに陰り、とん、と紙パックのお茶がレジカウンターに置かれた。
「あ、いらっしゃいませ」
 ななは慌てて商品のバーコードを読み取る。
「水戸部ー、それさっきおんなじのなかったっけ?」
 物静かな男の子は後ろからそう声をかけられ、こちらも慌てたようにしっ、と指を自分の口に当てる。その様子が、男の子に対して言うのもなんだが、大きな体と相まって可愛らしいな、と思ってしまう。
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