第7章 一つ遠くの
その日の朝もなながいつものようにバイト先のコンビニへ入ると、しかし珍しく店長がレジに入っていた。客足は、ない。
「おはようございます、どうしたんですか店長」
声をかけると店長ははあ、と大きな溜め息で返事をする。
「天海はのんきだなあ。まあ昨日休みだったしな」
「昨日?」
何かあったんだろうかとスタッフルームへ入ると、店長以上に珍しいエリアマネージャーがパソコンに向かったまま携帯電話で誰かと話していた。
(エリアマネレベルのヤバイこと……?)
ドキドキしながらロッカーへ……向かう途中のテーブルに、何枚かのチラシが散らばっているのが見えた。ななが一番上にあった一枚を手にして眺めると、なるほど彼らが朝から難しい顔をしている理由がすぐにわかった。
「計算以上に客を取られてる。しばらくは暇になるぞー」
電話を終えたエリアマネージャーが嫌そうな顔で自虐的に笑ってそうななに声をかけてきた。
「でしょうねえ。こんなに近くに、しかもここら辺にないタイプの特殊店舗ですよね。うちより高校の近くだし。正直わたしもこっちのコンビニ行きたいですよ。」
それは同業ライバル店舗のオープンチラシ。昨日の正午に開店したようだ。オープニングセールなんかもあるだろうから、しばらくは店の売り上げに影響することは間違いない。シフト表を確認するとベテラン少数で回す、完全に負けを見越したシフトになっていた。
(こりゃ来月の生活費は壊滅的だなあ)
ななは心の中で小さく溜め息を吐き、のんびりと制服に袖を通した。