第6章 卒業
今日で卒業する校舎。三年前には新しくて綺麗で、なにもかにもに胸を踊らせテンションも上がっていた。そして今、慣れきったそこから、立ち去る時。
ななの右手に、水戸部の左手が優しく重なる。慣れないその体温に恥ずかしくなって相手の顔を見られないのはお互いに。
「……また」
静寂を破るのはいつだってななの方。
「あとで、メール、する……」
水戸部はうんと頷き、名残惜しそうに手を離す。急に右手が冷たくなった気がしてすがるように水戸部を見上げると、やっぱり(ごめん)と背後を指す。つられてなながそちらに視線をやる、と。
「おせえぞ水戸部!」
「!!!」
数人の男子がこちらへ向かっていた。
「くっそマジかうまくやりやがって水戸部の癖に」
「仕方ないって。三年間拗らせてたのをやっとなんとかしたんだから」
「先輩おめでとうございます」
わらわらと。水戸部の周りに群がる彼らはよく見ればバスケ部の面々。何が起こったのかとななが水戸部を見ると、やはり仲の良い仲間達と合流したことでほっとしたような表情になっている。そして一瞬。目が合うと。
「バスケ部でこの後ごはんとか早く言ってよ! もう! ていうかあたしだってまこ達とごはんだし! いいよ大丈夫だから! またメールするって、じゃあね!」
まるで独り言を叫ぶように突然捲し立て走り去ったななの背中を見つめ、残された集団の大半は頭の中にはてなマークを乱舞させていた。
「なんだいきなり……」
「つーか挨拶なしかよ……」
けれど一人だけ、水戸部を見て嬉しそうに笑った。
「よかったな水戸部。俺、デートにまでついて行かなきゃいけないかと心配だったけど、分かってくれてそうじゃん?」
一番の理解者である小金井にそう言われ、水戸部は照れたように微笑んだ。