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水戸部短編詰め合わせ

第6章 卒業


 初めて隣の席になった、一年の最初の席替え。「よろしくね」なんてドキドキしながら声をかけたけど、その頃はまだ本当に全然喋らないなんて思いもしなかったから、返事がないことに少しショックを受けた。
 だけどその内忘れ物をしたらさりげなくフォローしてくれたり、取り留めのない話にきちんと相槌を打って聞いてくれたり。そんな優しさに気が付いて、その隣の居心地の良さに慣れてしまって。
(ああ、これってもしかして)
 いつからか持っていたこの感情が恋心だと気付くのに随分と時間がかかってしまった。
 メールアドレスを交換したのは二年になってから。また同じクラスだ、と笑いかけると、やっぱり控えめな笑顔が返ってきたから「じゃあ折角だし」と多少強引に交換した。その日は携帯電話ごと、彼につながるメールアドレスを抱きしめて眠った。
 そして三年の夏休み。受験対策の補習授業の最終日、意を決して、告白を、した。
「……あたし水戸部が、好き。ずっと、好きだったの」
 だけど当たり前だけどいつまでたっても返事なんて返ってこなくて、見れば困ったように立ち尽くすばかりで。
(ああ、これは、ダメか)
 すぐに、わかった。だから、すぐに走って逃げて。ほんの少し期待したけど、追いかけても、来なかったから。

ななの、恋は、そこで終わったのだ。

 卒業式、当日。
「なあな!」
 わあ、と涙をハンドタオルで隠しつつも拭い切らないあざとさを見せながら駆け寄ってくる友人を迎え入れる。
「まこ、泣きすぎー! 名前呼ばれる前から泣いてたでしょう」
「だってだってえー」
 式が終わった後の浮き足立つこの雰囲気に飲まれきって、他のクラスの友人達も集まってくる。
「うわーまこマジ泣きだった!」
「うちらのとこまでまこの泣き声聞こえたし!」
「そういうゆっこだって目ぇ赤いー」
 きゃっきゃと騒いでいるが、誰も咎めない。周りも同じようにはしゃぐグループであふれかえっている。
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