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水戸部短編詰め合わせ

第6章 卒業


 彼とは、もう三年目の付き合いになる。付き合いといっても交際しているとかそういう意味ではなく、ずっと同じクラスで、席もよく近くになった、そういう風に縁があり、それなりに異性のクラスメイトとしては比較的仲が良い。そういう意味での、付き合いだ。
 だけどななにとっては、それだけで済ませられるようなものではない。
 もうずっと、三年間の、片思い、だ。

「なあな! 明日終わったらご飯行こーよ! ゆっことなっちんも行くってさ!」
「わかった多分大丈夫。着替えてく?」
「うーん、どうしようかなー。もう明日で制服もおしまいじゃん? だったらこのままでもいっかなーって思ってるんだけど」
 卒業式、前日。2月に入り自由登校となった教室の中はすっかりと寂しくなっていたが、ななはほぼ毎日登校していた。大学も推薦で決まっていたし、特に学校の外でやることもない。形ばかりの課題をこなす為にどうせ半日しかないのだからと学校に通い続けていたが、理由は、もう一つ。
「天海」
 呼ばれて、振り返る。
「小金井。水戸部。どしたの」
 三年間、同じクラスだった彼ら。他にも何人かずっと同じクラス、という者はいたけれど、なんとなく席が近くなることも多く、不思議と仲良くなれた彼らとも、明日で、最後。
「これ先生のプレゼント代、お釣りだって川島から」
 クラス委員がまとめていた担任への贈り物。結局何になったのか知らぬまま、お釣り、と声をかけた小金井ではなく、水戸部の大きな手から130円が渡された。
「ラッキー、ジュース代できた」
 軽く言うと、水戸部がふっと笑うのが見えた。
(この笑顔も、見納めかあ)
 優しい控えめな笑顔。この顔が好きで、ずっと傍にいたいと思っていたのに。
「じゃあ明日ね」
「うん、明日な天海。気を付けてなー」
 手を振る姿を、振り切って。急ぐわけでもない帰り道、足早に、通り抜けて行った。
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