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水戸部短編詰め合わせ

第5章 見つめる、先


 そして期待を裏切られるのがまた、お約束というものでありまして。
(そんなこったろうと! 思ったけどさ!)
 少しだけ開いた体育館の扉の向こう、じっと視線を送ってくるのは天海で、確かに邪魔はしていない、していないけれどどうにも気になって集中できていない部員が何人か出てきた。
 特に、一番……というよりも一人だけ熱く見つめられている、――水戸部凛之助は、ただでさえ周囲の雰囲気に敏感であるが故に落ち着かないどころか挙動すら怪しくなってきていた。
「しかもよりにもよって水戸部先輩かよ……」
 ドリブルの基礎練習をしながら小さく呟いた降旗の目の前に。
「降旗くんのお知り合いですか」
「のわあっ!?」
 いつの間にか、同じく一年生の黒子が立っていた。
「いっいつから!?」
 黒子の存在感は非常に薄く、未だに油断しているとその姿を見失う。
「そろそろ慣れてください。僕は最初からここで練習してました」
 後からきたのはそっちです、と涼しい顔のわりに上がりきった息で抑揚なく言い放ち、それよりも、と付け加える。
「あそこで水戸部先輩をずっと見てる子は降旗くんのクラスの子ですよね」
 降旗はどきっとして思わずボールを取り落とす。
「なっ何で知ってんの!?」
 浮き足立つ雰囲気に苛々している監督に怒鳴られる前にボールを急いで回収しながら黒子に尋ねる。
「僕、人間観察が趣味なんで」
「……趣味悪いって言われねえ?」
「ええまあ」
 だけど今はそういうことではなくて。
「降旗くんが何とかするのが一番いいんじゃないでしょうか。そろそろカントク、爆発しそうで怖いです」
「!!!」
 確かに、勝手に見学を許可したのは自分だし、それを黙ってばれてから怒られるより自首に近い形で自分から動いた方がもしかしたら……
(んん?)
降旗はそこである可能性に思い当たる。
「俺が今動けば怒られるのは俺だけだけど、黙ってたらみんなに八つ当たりされるとかそういうことか?」
「はい、そういうことです」
 なんの配慮もフォローもオブラートもなく。つまり黒子というこの男は余計な怒りをぶつけられたくないのだと言外にはっきり言い切ったのだった。
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