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水戸部短編詰め合わせ

第5章 見つめる、先


 入学式から少し経ち、新入生、なんて呼ばれていた一年生もそろそろ学校に慣れてきたころ。
「フリお前何部入ったんだっけ?」
「あ、俺バスケ部」
 クラスメイトに聞かれ、さらりと答えた、その、言葉に。
「は、ふ、は、あ、降、旗降くん!」
 聞きなれない、声が。名前を呼んだ。……間違って。
「降旗だよ。どしたの、えーと」
「あ、の、あの、天海、です。あの、旗降くんは」
「降旗」
「バスケ部に、入ったの!?」
 挙動不審に、決して大きい声とは言えないなりに天海は叫ぶようにして、教室の端から机や椅子を薙ぎ払うように……見え、その実障害物すべてに全力でぶつかりながら降旗の元へ近づいてきた。
 決して仲が良いとは言えない、というより、今初めてしゃべるクラスの女子の存在に、少しドギマギして降旗は斜に構えて答える。
「……お、おう。それがどうしたんだよ」
 すると天海はぱあっと顔を赤らめて、恐る恐る、しかしとても図々しいことを言い出した。
「練習、見に行っても、いいかなあっ!?」
 瞬間、そこにいた男子の間に小さなざわめきが起きたが、当の天海本人は気付かないのか何の反応も示さない。言われた降旗自身もどう反応していいのか困ったが、当然ながら悪い気はしない。ので、つい、言ってしまった。
「い、いいんじゃねえの! 邪魔にならないように大人しくしてればさ!」
 先輩や監督がどう思うかなんて考えもよらず、ただ反射的に口先だけで出してしまった答えだが、天海はますます身を乗り出して、「ありがとう!」と潤んだ目で礼を言って、来た時よりもスムーズに元いた方へと戻っていった。
「……なんなんだ、あれ……」
「……つーか、なあ?」
「あれ、なあ?」
 小さな台風が去って行ったあとには、そわそわとした空気が形成されていて。
「フリ、お前いいとこ見せれよ?」
「そ、そんなんじゃないだろ、あれは!」
 慌てて否定するが
「いやあの食いつき方は、……なあ?」
なんて言いながら肘でつついてくる者もいる。
「……ンなんじゃねえって、絶対……」
 とは言え、まあ、期待はしてしまうのが、年頃の青少年というやつで。
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