第4章 友達の、お兄さん
「昨日はごめん! ほんっとごめん!!!」
翌日、千草が教室に入ると、ななが土下座でもせんばかりの勢いで謝ってきた。
「いや、いいんだけど……本当になにもされたりしてないんだよね?」
あの後しつこいほどさりげなく聴いてみたが、小金井も兄も困るばかりで何かあったとは千草には到底思えなかった。だから最後の念押しに聞いてみると、ななは、一瞬で顔を赤くして俯いてしまった。
「なあな!?」
「……の」
「え?」
小さな呟き。
「目が合って、にこって……笑ってくれたの……」
それだけ言うと、ななは両手で顔を覆ってしまった。
「……それだけ?」
呆れたように千草が尋ねると、耳まで真っ赤にしたままこくこくと頷く。
「……どっち?」
無反応。
「小金井さん?」
無反応。
「……凛兄?」
無反応……だが、心なしか耳の赤みが濃くなっている。
「…………マジで?」
「マジ、で……」
蚊の鳴くようなとはこの事だろうか。ななは赤い顔を隠したままの姿で固まってしまっている。
「妹としてどう反応したらいいか困るわ……」
「ごめん……」
「いやいいけど……」
友人と、兄。いけない組み合わせではないがなんとなく気まずい。しかしここまで想うのであれば……まあ、所詮は中学生の片想い。たかが知れる程度だろう。
(それに凛兄のしゃべらなさを知ったらまた変わるかもだし、万が一付き合うなんてことになっても、なんかすぐ振られるような気もするし……)
頭の中でぐるぐると打算的なことも含めて考えた、結論は。
「……できる範囲で、協力しようか?」
その言葉に、弾かれたように顔をあげ、今にも泣きそうな瞳でななは千草に飛び付いた。
「ちーちゃあああん! 好きー!!!」
その反応に、千草は少しだけ
(早まったかな……)
後悔、した。