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水戸部短編詰め合わせ

第4章 友達の、お兄さん


 視線をちらりとずらすと、“小金井さん”の後ろに穏やかな雰囲気を湛えた男性が、やはり穏やかな表情でこちらを見ている。
(ひぇっ)
 心の中で叫び、慌てて俯く。しかしやはり気になって、そろりと目だけで再び見つめる。
(ちーちゃんの、お兄さん、だー。雰囲気そっくりー! 背、高いよー! て、いうか、)
 格好いいな、と思ったところで目が合ったことに気付かれたようで、千草の兄は少しだけ首を傾げて、にこり、と微笑んだ。
(!!!!!!!!!?????!!!!!!?!?!)
 その一瞬、ななの顔が爆弾であったなら、あるいは花火であったなら爆発していたのではないか。そう思えるほど一気に顔は熱くなり、心臓が誰かの手で鷲掴みされ絞られているような感覚に陥った。
(なに、あれ、なにあれ! なに! あれ!!!)
 腹の底に石を置かれたような、でも不快ではない違和感に制服の裾をぎゅっと握ると。
「ごめんなあなお待たせ! て、わ! ちょっとなにしてるんですか小金井さん! 凛兄も!」
 ぱたぱたと千草が二階から降りてきて、玄関扉の脇に固まったまま顔を真っ赤にしたななと、そんな彼女の反応に「?」マークを浮かべながら戸惑う小金井と兄の姿を見て思わず叫んだ。
「えっ!? いや俺らなにもしてねーし!? なあ水戸部!」
 水戸部(兄)は焦ったようにこくこくと無言で首を縦に何度も振る。その姿はアカベコのようだ。
 その姿にはっとなり、ななは慌ててフォローする。
「あっ、の、ごめんなさい、あの、わたし、人見知りで……す、すみません……」
 そして千草に近付いて。
「き、今日はほんと、いきなり、ごめんね! また、明日ね!」
「あ、うん……」
 と、この状況をどう処理していいのか考えあぐねたまま、千草はななに本を渡し、「また、ねー……」とぼんやり逃げるように走り去る背中を兄達と共に見送った。
「……本当になにもしてないんですよね?」
「マジでなにもしてないんだけど……」
「……」
 後にはなんとも言えない空気だけが不思議な存在感を残されていた。
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