第4章 友達の、お兄さん
そうして待ちに待った放課後。
「あ、よかった。あいつら外に遊びに行ってるな……」
ななを連れて家に帰ってきた千草は、玄関にある靴を確認してそう呟いた。
「どうする? うるさいのほとんどいないから、あがっていく?」
さっきまでの難しい顔はどこへやら、いつもの穏やかな笑顔でななを振り返って声をかける。
「んー、いいよ。なんか押し掛けたみたいで悪いし、本だけもらったらすぐ帰るよ」
だからここで待っている、と玄関扉のすぐ脇に立ったまま答えると、千草は「そう?」とやはり申し訳なさそうな顔になる。
「せめて玄関先だけど座っててよ。すぐ取ってくるね」
そう言って素早く踵を返して目の前の階段を軽やかに登って行き……声が、した。
「あっ小金井さんこんにちは! 今日は部活じゃないんですか?」
「千草ちゃんこんにちはー。今日はテスト前だからさー、水戸部と勉強だよー。でもちょっと休憩!」
「そうなんですか、ごゆっくり」
ななからは死角になって見えないが、どうやら千草の兄弟の友人がいるらしい。なんだか急に緊張してしまい、階段を降りてくる足音に耳を澄ませた。
「あれ、知らない顔」
降りてきたのは二人の男性。体格がよくてすぐに年上だとわかる。クラスの男子にはない色んな魅力を纏っているような気がして、自然、ななの胸が高鳴る。
「千草ちゃんの友達? 入らないの?」
人懐こい顔でにこやかに声をかけてくれるのは
(さっき、ちーちゃんが“こがねいさん”って言ってたから)
千草の兄の友人だろう。千草とも全然似ていない。
「あ、の、貸してた本、返してもらいに来ただけ、なので……」
声が上擦る。慣れない年上の男性に、言葉の出し方を忘れてしまったような気分だ。