第4章 友達の、お兄さん
その日、初めて友人の家へ行くことになった。
「ごめんなあな! 借りてた本忘れてきちゃった。明日でもいい? それとも一旦帰ってから、なあなの家まで持っていこうか?」
この春から同じクラスになり、仲良くなった友人の千草。彼女に貸していた文庫本はななの気に入りの本で、確かになるべく早く返してとは言ったものの、別段今日でなければならないこともない。とはいえ。
「んー、明日でもいいけど、ちーちゃんち、帰り道の途中だし、寄って行ってもいい? 本だけもらったらすぐ帰るからさ」
「あ、そっか。そうだね。……でもちょっと遠回りじゃない?」
千草の凛々しい眉が小さくひそめられる。忘れた上に回り道をさせることに申し訳なさでも感じているのだろう。ななは笑って「大丈夫だよ」と答える。
「全然、遠回りなんて言うほどじゃないよ。ちーちゃんの家、行ってみたかったし」
けれどその答えはあまり千草の表情を和らげるものではなかった、どころか益々眉間に皺が寄る。
「……ちーちゃん?」
「あっごめん。でもほら言ったじゃない? うち、兄弟多いから……面倒って言うか……友達にちょっかいかけるのとかもいるし……」
もごもごと言葉を濁して言い訳のようになっている千草を見て、ななはごめん、と謝った。
「えっなんで謝るの!?」
「や、急に家行きたいとかちょっと距離無しだったなーと思って……家来てほしくないとか考えてなくて、……ごめん」
再度あやまるななに、今度は千草が慌てて謝る番だった。
「あっごめんそういうんじゃないんだ! 本当にデリカシーないのとかいるから、なあなが嫌な気分にならないかなって!」
そうして一瞬言葉を止めて。
「……まあ、ちょっとだけなら、大丈夫かな。うん、じゃあ、家に寄って行ってくれる?」
「うん!」
複雑そうな千草の顔とは裏腹に、友達の家に行ける、というだけでなんだか嬉しいななは、その日の放課後までとても上機嫌で過ごすことになった。