第2章 変わりもの
それにしても、ここでひとつ疑問がある。栄養バランスの良さそうな日本食が並ぶ中、なぜかその傍らにはコーヒーが置かれている。
『どうしてコーヒーなんですか?』
「飲み物が、コーヒーと牛乳しか見つからなかった…」
そうだ。普段、茶葉は炊飯器の下の棚の奥に置いてある。いつからかそこが定位置となっている茶葉を、私以外の人が見つけることは容易ではないだろう。
私は少しかがんでそれを取り出し、二人分の緑茶を入れ、牛乳パックと共に席についた。
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「今日はお休み…なんだよね。いつもは休みの日何してるの?」
『休日か…特に何をするってわけでもないです。強いて言えば、本読んだり、DVD観たり、持ち帰った仕事したり……とか?』
「へぇ…。休みの日までお仕事するなんて大変じゃない?」
『あぁ…言い方が悪かったかも…仕事っていうか、仕事のためのお勉強みたいな感じです。」
こんなたわいない会話をしていてふと気がつく。彼は話がうまい。特におだてたり、世辞を言ったりするわけでもないが、彼の言葉に対してはなぜか返答がスラスラと出てくる。
昨日の彼は、ほとんど言葉を発しなかったため、人見知りかあるいは無愛想な青年かと思っていた。
(この煮物美味しい…。)
彼の手料理はどれも美味しく、ついつい箸が伸びてしまう。1時間弱という短時間でどうやってこれらを作ったのだろうと考えていると
「あのさ…俺、あなたの名前が知りたい」
『あ……。』
確かに、言われてみればそうである。私は彼の年齢や職業はおろか、名前すらまだ知らない。
もちろん彼のその言葉に面食らいもしたが、同時に互いに何も知らない『彼』との間にこんなにも穏やかな時間が流れているという事実が私の心にさざ波を立てた。