第2章 変わりもの
『あの…私、シャワー浴びてきますね。』
そう言って立ち上がった私は、かがんでいる彼の頭をお返しにとひと撫でし、急ぎ足で浴槽へと向かった。
少し眉をひそめたり、口角をわずかにあげて私を見つめたりする彼に、まるで小動物のような愛らしさを感じてしまったのだ。私はそんな彼に触れずにはいられなかった。
(髪…柔らかかったな。)
_____________________________________________
今週分の仕事の疲れと昨日の一件とがあったせいか、無意識のうちに普段より長い時間シャワーを浴びていたようだ。
しかし、そのおかげで身体の汚れと疲れを一掃した気分になり、私は小さな幸せを感じていた。
(………?)
上機嫌な私の鼻腔を香ばしいコーヒーの香りがくすぐった。普段"コーヒーをコーヒーとして飲まない"私でもこの香りは心地よく感じる。
香りに引き寄せられるようにしてたどり着いたのは先ほど彼と言葉を交わした場所だ。私は気持ちが高ぶるのを感じながらドアノブに手をかける。
___________ガチャ。
『うわ………なにこれ…っ!?』
キッチンカウンターに隣接したテーブルの上には、これぞ日本食と言わんばかりの品々が並んでいる。
焼き魚にお味噌汁、ほうれん草のおひたしに煮物まである。何と言っても白いごはんがつやつやしていて美味しそうだ。
「あ、おかえり。俺…あなたのために朝ごはん作ろうと思って。食材、勝手に使っちゃった。迷惑かもって気づいたんだけど…作り終わった後だった。ごめんなさい。」
『全然っ…!迷惑じゃないです!!寧ろ嬉しい…美味しそう。』
そう言うと彼は、先ほど見せたのと同じきれいな微笑みを私に向けた。少し目にかかるくらいの前髪が揺れ、大きな目がわずかに細くなり、薄い唇が軽く開かれる。
そんな表情の小さな動きまでも、私の目は正確に捉えた。まるで、この一瞬をより鮮明に刻みつけようとするかのように。