第2章 変わりもの
『へぇ……。』
やはり近くで見ると背丈が大きいことがよくわかる。私より頭一個分以上はありそうだ。
そして昨日も思ったが、髪と肌がとてもきれいだ。どちらも女性よりも繊細な印象を受ける。
少し触れてみたいという衝動を私は瞬時に抑え込む。ふたつの真っ赤な宝石は今は閉じられていて見ることはできない。
(なんでこんなきれいな子が、あんなところにいたんだろ…。)
昨日は家出少年を預かる程度の心持ちで連れ帰ったが、今考えると家出という年齢でもない気がする。そうだとすれば、彼は今までどのような生活を送ってきたのだろうか。
自分とは全く違う世界の存在のような彼をソファの背もたれの後ろから見守りつつ、しばらく考えているとふたつのルビーの表面に私が映りこんだ。
「おはよう…。ごめん……起きるの遅かった。」
___________ゴンッ。
『いっ…………た…』
彼の目覚めに驚いた私は反射的に身を引く。運悪く、私の後頭部の先にあったのはキッチンのカウンターだ。
後頭部がジンジンと痛む。頭を抱え込み、しゃがんでいるとどういうわけか彼が近づいてきて、不意に頭を撫でた。
『っ………?』
ああ、心配してくれたのか。ようやく彼の手の意味を理解した私は若干涙目のまま彼を見上げる。
まだ眠そうなふたつの瞳が私を捉える。そして、後頭部を数回往復したところで手を引くと、同時にきれいに整えられた眉をひそめた。
「ごめん…昨日約束したのに……触っちゃった…」
『…??』
一瞬何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。確か彼は昨日、私に触れないと言った気がする。
しかし、頭を撫でられても特に嫌悪感を感じたわけでもないので問題はない。もとより、人から触れられるのは苦手ではない。
『別に大丈夫です。人に触れられるのは嫌いじゃありません。』
そんな言葉を放つと今までほとんど変わることのなかった彼の表情がほんの少し柔らかくなった気がした。
笑うというよりも微笑むといった感じだろうか。とりあえずわかったことは彼はどんな表情をしてもきれいだということだ。