第8章 強かもの〜葉月椎視点〜
「そんなことより椎!熱あるんだから寝てなきゃダメでしょっ!」
「へ……?」
そういえば、起きたときは頭痛がして、なんとなく身体も重かった気がする。あの寒さの中、長時間外にいたせいで風邪をひいたらしい。
(ああ…なんか、体…熱い。)
病は気からとはよく言ったものだ。自分が風邪をひいていると認識した瞬間、ひどい頭痛と倦怠感に襲われる。
彼女に促されるままに、ベッドに横になる。しかしここは彼女が寝る場所だ。
『俺…ソファで寝るから、早く仕事の支度…して。寝てれば治るから…。』
「ちょっと!そんなフラフラな状態じゃっ…!」
ソファへと向かおうと立ち上がった瞬間、彼女が危惧した通り、目眩がして足元がふらつく。足にうまく力が入らない。
「…っ!?椎、危ない!!」
______ガタンッ
床に倒れたはずが、どこにも痛みを感じない。熱で感覚が鈍っているのだろうか。
いや、違う。倒れ込んだのは床ではない。俺を咄嗟に支えようとした彼女の上だ。
「びっ…くりした…。」
彼女は倒れそうになった俺を支えようとしたが、そんなのは無理に決まっていて、すかさずベッドの方へ引き寄せたのだ。
自分の下から、彼女の鼓動が伝わってくる。しかし、自分の鼓動と重なってどちらのものかわからなくなってくる。
『ごめん、重いよね…今、起きる…。』
小さな彼女のことだから、早くどけないとつぶれてしまいそうだ。起き上がるために両腕に力をこめる。
『あれ……力…入らない。』
いくら起き上がろうとしても、全く腕がいうことをきかない。これは確実に風邪のせいだ。
「そんなにひどいのっ!?大丈夫?ちょっと待ってて今頑張るから。」
こんな時まで人の心配をしている。状況からして、今あきらかに大丈夫じゃないのは彼女の方だ。
こういうところを見せられる度、彼女の自覚の無さに気が気でなくなる。彼女は器用に、ベッドから抜け出そうとする。
______グッ
なんとなくひとりになりたくなくて、今もっている力を駆使し、彼女を腕の中へと閉じ込める。風邪をひくと人肌恋しくなるとは、こういうことか。
『お願い。ちょっとだけ……じゃ嫌だな…。ずっと、このままでいたい…』