第5章 仕置きもの
______ぺチッ
「…っう…。」
平たい音と同時に小さく彼の呻き声が聞こえる。私が彼を自分から引き剥がして、彼の額を軽く中指で弾いたのだ。
『お仕置き…ね?』
そう言うと、彼は自分の額をおさえながらニッと微笑んだ。
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『椎、お風呂上がったよー』
「あ、うん。ありがとう、俺も入ってくる…ね。」
あの後、私たちは椎の手料理で夕飯を済ませのんびりと過ごしていた。やはり、彼の料理の腕前はさすがとしか言いようがなかった。
(……?)
ふとソファの前のテーブルに目をやると彼の手帳とボールペンが置いてあった。勝手に覗くのは正直気が引けたが、湧いてしまった好奇心に勝つことはできなかった。
______パラッ
(うわ…。)
そこには、彼の起床から夕飯作りの時間までのスケジュールが分刻みで書き込まれていた。
(これを一日でこなすとか…私にはできない。)
彼の意識の高さが身にしみて感じられた後、私はもとあったように手帳を戻した。そのままソファに寝転ぶと、急に猛烈な睡魔におそわれた。
(あー…これは寝ちゃうな…)
わずかに香る彼の香りに身を沈めて、私は深い眠りについた。
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______ガチャ。
「ふぅ…気持ちよかった。お風呂ありが……と…?」
ソファには、猫のように小さく丸くなった絵夢が静かに寝息を立てている。
「風邪…ひいちゃうよ。って言っても起きないか。」
自分用に用意された毛布を彼女にかける。少しくすぐったそうに身をよじるが、それでも起きる気配はない。そんな彼女に多少なりとも愛しさが込み上げてくる。
「本当に、ありがとう。絵夢には…感謝しても、しきれない。」
『……ん。』
夢の中で返事をした彼女につい笑みが零れる。そのまま彼は、彼女の顔の近くに腕を組んで上半身をソファに預ける。
「おやすみなさい…」
その言葉を合図に、部屋には静寂が訪れた。