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君に十進法

第5章 仕置きもの




「…起きたら、絵夢がいなかったから…謝ることもできなくて…早く謝りたくて…いつ帰ってきてもいいようにここで…」

『え…!?まさか、朝からずっとここで?』

私の問いに対して、何も反応を示さないがそれはおそらく肯定の意味だろう。まさかとは思ったが、彼ならやりかねない。


「…けど、帰ってくるはずの時間になっても…絵夢…帰ってこなくて…」


私の帰宅が遅くなったのには理由があるとして、彼の不安を煽ったのは間違いない。

『もう…帰ってこないかと…思った…』

______ギュ…


とうとう堪えきれなくなった涙が彼の頬につたった瞬間、私は彼の頭を自分の肩に引き寄せた。

普段なら、いい大人がこんなことで涙を流すなど不可解極まりないといったところだが、彼なら許せてしまうのだから不思議である。

『…遅くなってごめんなさい。不安…だったよね。』

そう声をかけると、彼は嗚咽を漏らしながらふるふると頭を振った。やはり、私が抱きとめるには少し大きい体である。

今回のことは多少なりとも私にも非があったと思う。

(…もっとちゃんと話しておくべきだったな…)

彼の髪を軽く撫でてやると、私の背中に腕がまわる。何度か経験したこの感覚はやはり嫌いではない。

「どうしてあなたが…謝るの…?悪いのは、俺。」

『私が、椎の目覚まし止めちゃったの。椎のこと起こしたくなくて。』

「……?朝ごはんは…俺の当番…」


彼はわけがわからないといったように首を傾げる。揺れた髪が頬に当たってくすぐったい。

『うん、そうなんだけど…椎は慣れない環境での生活に疲れてるのかなって思って。』

椎がくるまでは毎日コンビニで買って朝昼と食べていたため今日だって特に困ったことはなかった。

それでもやはり、彼は納得しないようでギュッと私の服を握りしめる。

「それはそれ…ちゃんと悪いことしたら、叱ってくれないと、ダメ。絵夢はいろんなもの…俺にくれてるから…俺もそれと同じくらい…絵夢に返さないと。」

『んー…。』

叱ると言っても、お互いに非があるため彼だけを責めるのはどうも腑に落ちない。しかしこのままでは彼は納得しないだろう。

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