第2章 変わりもの
__________ギュッ。
つい最近経験したことのある感覚だ。あの時はお互い全身冷え切っていて、あまり感覚がなかった気がする。しかし、今は彼からの暖かなぬくもりを全身に感じる。
華奢だと思っていた彼だが、やはり男の人なだけあって肩幅も広いし、胸板もそれなりの厚さがある。
(甘えたがり…なのかな?)
これが母性本能というものだろうか。なんだか彼がとても可愛らしく見えてきた。
私には下の兄弟がいないためわからないが弟ができたらこんな感じなのかな、などと頭の中で考えを巡らせていると
「ねえ…お願い。なんか、今の話し方は…寂しい。」
彼が私の返事、それも了承の返事を急き立てるように言葉を放つ。悲しそうに眉をひそめる彼の顔はどうしてこうも私の心を乱すのか。
ここまでくると、自分が意地悪をしている気分になってきてしまい、私はついに首を縦に振った。
「ありがとね、絵夢。」
ふわりと笑う彼に絆されそうになる。彼は押しが強いというか、それともこれは作戦なのか。
この笑顔が見れるなら、なんでもいいなんて思う私は、彼に魅せられているのだろう。
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彼の手料理で昼食を済ませた後、私は部屋で仕事に関する資料を眺めていた。好きなことを仕事にしているので、苦痛に思ったことはない。
__________コンコン。
『椎…?どうかしまし…どうかした?』
「絵夢、今ちょっといい?」
いきなりの彼の訪問に少し驚きつつも、別段やらなくてはいけないことがあるわけでもないので彼を部屋へ招き入れた。
『物が少ないから散らかってはいない…かな?どうぞ中に入って』
「ごめんね急に。ありがとう」
私たちは小さなローテーブルに対峙して座った。きっと何か話があるのだろうと、私は次の言葉を待った。
「すごく迷惑なのはわかっている上でお願いなんだけど、もう少しだけ…俺をここにおいてくれないかな。詳しい理由はまだ話せないんだけど、いつか絶対、絵夢には話すから!だから、お願い…」