第2章 変わりもの
なんとなく話の想像はついていた。というか、私自身も彼の今後について考えていたからだ。
なんとなく感情的になっている彼。正座した膝の上の拳は震えている。
頭を下げてうつむいているから表情は見えないが、おそらく眉は八の字に下がり、頼り無さ気な顔をしているだろう。こんなことまで考えさせてしまうとは、彼は人の心に入り込むのがうまいと思う。
『いいよ…今は何も聞かない。しばらくここにおいてあげます。私、人を見極める目は持ち合わせているつもりですから』
「っ…?!ほんとにいいの…?もしかしたら、金目のものが盗まれたり、俺のせいでおかしな噂がたったり…、その…俺に、変なことされたりするかもしれないよ!!?」
『椎は、そんな人なんですか…?』
「ち、違うけど…でも!!」
年の割に落ち着いたイメージだっただけに、しどろもどろな彼がおかしくて笑いそうになる。こんな時くらい自分を優先したらいいのに、なんとも彼らしい。
『では、問題ないでしょ?』
「…ん。ありがとう、本当にありがとう…。」
椎はより一層深く頭を下げて、感謝の言葉を告げた。
雪に埋もれた男の子を拾うなんて、素性も知らない人を家におくなんて、そんな人を可愛らしいと思ってしまうなんて、全部おかしいと思う。
けれどその全部が『椎』なら許してもいいのでは、という暗示のような何かに今は身を委ねてみようと思う。
こんな感覚は初めてで、まだまだ敬語はぬけなくて、そんな中でも少し楽しいと思っている自分がいて。だからもう少しだけ、真っ白な彼と生活します。
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その後の討論の結果、彼は家事全般を担当するという形で生活費は私がもつことにした。彼は、すぐにアルバイトでもなんでもして返すと言ってくれたが、私は返してもらうつもりはない。
家事の対価として生活費を出すのだから返してもらう理由はない。
それに、今の仕事ではそれなりのお給料をいただいている。貯金もあるし浪費癖はない。というよりお金をつぎ込むところがないのだ。
そのため、ひとりくらいであれば住人が増えたとしてもなんとかなるだろう。
ただ、彼の今後の資金になるだろうとアルバイトには特に反対しなかった。
こうして、本格的に彼と私の同居生活がスタートした。