第1章 夢
エルヴィンの執務室の前まで走ったせいか、背中の痛みが増していた。
だがそんな事を気にしている場合ではない。
エミが執務室のドアをノックすると静かにドアが開いた。
「こっちに座りなさい」
優しく微笑んでソファーへと促す。
促されるままソファーに座ると向き合うように置かれた椅子にエルヴィンも座る。
「怪我は大丈夫なのかい?」
「はい、だいぶ良くなりました」
そしてそのままエルヴィンは話を続ける。
「君を呼んだのは大事な話があるんだ。
私は君をリヴァイの補佐役にしたいと思っている」
「...!?」
突然言われた言葉に驚いたエミを見てエルヴィンは笑った。
「君の実力は皆が認めている。
まだ幹部にしか話していない事だが、君にはリヴァイの補佐役が適任だと思ってね」
「私はそんな大役出来ません!
それに兵長に補佐役はいらないかと...」
口篭る様子を見て優しく微笑む。
「これはリヴァイが提案した事なんだよ」
「兵長が?」
もう頭の中がゴチャゴチャだ。
私を補佐役に指名?
自分にはそんな大役は務まらない。
戸惑うエミを見ていたエルヴィンは表情を変えずに静かに言った。
「戸惑うのも無理はない。
だがこれに関しては君にしか頼めないんだ」
「な...何故私なんですか?」
そう聞いたエミを見てエルヴィンは微笑んだまま答える。
「悪いが今は話せない。
だが君が補佐役になる事で兵団自体に大きな利益になるんだ。
勿論君が頑なに拒む様であれば団長命令として無理にでも君を補佐役にする」
先程まで微笑んでいた顔はそこには無かった。
エミの前にいるのは冷酷とまで言われる団長だった。
リヴァイにさえ何を考えているのか予想がつかない男。
そして選択肢は1つしか与えられなかった。
「...分かりました。
団長がそこまで仰るならお引き受けします」
断っても命令されるのであれば断る意味が無い。
了承したのを聞いてエルヴィンはいつもの優しい笑顔に戻った。
「ありがとう。
まだ体は本調子ではないのだろう?
帰って休みなさい」
「...はい。失礼します」
そう言って執務室を後にした。
エルヴィンは何故こんな形で自分を補佐役にするんだろう...
この時のエミには全く理由が分からなかった。