第1章 夢
『お父さん、今日もお仕事?』
家には自分と父親しかいない。
朝ご飯をテーブルに置きながらエミは父親が制服に着替えるのを見つめる。
『うん。
今日は帰りが遅くなるだろうから先に寝てなさい』
そう言いながら着替え終わった父がテーブルに座り、た用意された食事を急いで食べ家を出ていく。
エミはそんな父の姿を見て何か違和感を感じたが、あえて何も言わずに見送った。
父は調査兵団の幹部だ。
先日壁外調査を終えたばかりなので忙しいのであろう。
いつもの事だ。
元々ひとりっ子であったし、母親は自分を産んで直ぐに他界した。
そんな自分を気遣ってか、忙しい時でも必ず家に帰って来てくれる父が大好きだった。
しかし、それが最後の会話になるとはエミは想像していなかった。
翌日の朝、目を覚ましたエミは父が帰って来てない事に気付いた。
少し心配したが、きっと仕事が忙しくて帰って来れなかったと思うことにした。
お腹を減らして帰ってくるであろう父の為にご飯を用意していると、コンコンと家のドアを叩く音がした。
父が帰ってきたのだと意気揚々と扉を開けるとそこに居たのは父ではなく分隊長をしているエルヴィンが立っていた。
『朝早くに申し訳ないが、君がエミだね?』
何事かと思ったが頷くと同時にエルヴィンが口を開いた。
『申し訳ない。
君のお父さんは昨晩亡くなった。
これを君に渡すようにお父さんから預かったんだ』
何を言ってるんだろう...
お父さんが死んだ?
そんははずは無い。
昨日、お父さんは仕事だって...
エミが呆然と立っているとエルヴィンは封筒を渡してきた。
そこには『エミへ。』と書かれていた。
『何と言ったらいいのか分からないが、君のお父さんを私は尊敬しているよ。
調査兵団を守る為だったのだから...』
悲しそうな面持ちでエミに精一杯の笑顔を見せたかと思うと、そのまま踝を返し去って行った。
意味が分からない。
とりあえず扉を締め、椅子に座ったが頭の中がゴチャゴチャだった。
そして封筒を握り締めたままエミは椅子に暫く座っていた。