第5章 鷹と猫1
猫に会ったのはいつの話だったか今ではあまり思い出せないぐらい、最近なんだけど昔の話。
大学の学科が同じで、学科のクラスも同じで、比較的出席番号が近いぐらいの関係。
別に特別な何かがなきゃ話しかけないような、そんな関係。でも、いつの間にか近くになんとなくいる存在になった。
そうなったのは紛れもなくあの事件からだ。
いや、事件と呼ぶには大げさすぎるか。
亀が単位を落とそうになった。
多分今からでも頑張ればなんとかなるような教科で、猫は必死に亀を説得させた。
『これまで頑張ったんだから、あと少しまた頑張ればいい話』
『来年になると他の授業で取れなくなるよ』
はっきり言って、バカ世話好きという感じだった。
それでもそんな言葉に励まされて亀は頑張った。
猫はその説得のあとはそれほど手を出さずに、亀が困ったと声を上げた時は手取り足取り教えて、それが済んだら帰る。まるで猫みたいだった。
亀も必死に頑張ってなんとかなった。
亀はちゃんと単位を取った。
猫はそれをすごく喜んで、『ご飯を食べに行こう!』と亀と俺を誘った。
ご飯のあと、猫は『ありがとう』といった。
よくわからなかった。「なにが?」と聞き返したぐらい。
『亀に資料とか渡したんでしょ? 亀はにはやっぱりプライドがあるからさ、女の私がひょいひょい手伝うとなんだかなぁーってなるじゃん、男の君がいてくれてよかったよ。亀の単位は、私たちの賜物だね』
正直、驚いた。
そこまで知ってるとは思わなかったから、俺はなんだか少し嬉しかった。