第1章 せめてこの日だけは(椎名翼)
そのままの勢いで椎名家にお邪魔させていただいた。
だが、あたしら以外はいる気配がない。
「あ、今日誰もいないから。夕方辺りには帰ってくるだろうけど」
「ほー………椎名、お前心読めないよな?」
「俺、名前じゃないから。あと、玲でも杉原でもないから」
「だよなー(笑)」
じゃあ、何であたしが考えてる事が分かったんだ?
勘か?………ていうか、あたしは読めるけどプライバシーを気にして読まないし。
まぁいいや。
そうこう思考を巡らせていると、椎名の部屋に着いた。
「適当にくつろいでていいから。飲むやつはお茶でいい?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
あたしに飲むやつを確認して、椎名は部屋を出ていった。
くつろいでいいと言ってもなー。
人ん家でくつろげるかってーの。
だが暇だし、何か面白いもんでもねーかなー。
そう思いながら辺りを見回してると、椎名の机の上に飾ってある写真が目に入った。
「これは……ナショナルトレセンの時の写真か」
東京選抜のメンバーで撮った写真。
ついこの前までいたメンバーなのに、何故か懐かしさが込み上げてくる。
風祭くん……君が怪我する事も知っていて、でも治る事も知っていて。
だから、何も出来なかった。
ストーリー通りに進めなきゃならなかったから。
本当に、神のくせに無力な自分が嫌になる。
しかも、この写真には………
「ちゃんとお前が写ってるだろ?」
「!、あぁ」
いつの間にか、お茶を持って椎名が帰ってきていた。
「割とあるんだぜ?名前の写真」
自分のジュースを飲みながら、椎名は面白いものを見る目で笑っていた。
あ、これはタチわりーやつだ。
「は?嘘だろ?」
「お前、写真の時は逃げるからさ。玲とかが撮るのに苦労してたぜー?」
「つー事は、玲さんが結構隠し撮りしてたって事か?」
「その通り!」
ちょ、それ困るわ、切実に困る。
そんな思い出写真何か見て、後々あたしの事を思い出されても困る。
どうせあたしは元の世界とかに戻んなきゃだし、何より………
「あたし、とても写真写りわりーんだー。だからさ、全部引き取るから抹消させてくれねーか?」
「やーだね!」
にゃろう………