第6章 与え、求め、受け取る(椎名翼)
「………今日」
『うん』
「ある奴から言われたんだ。『貴様がどれだけ守っても、その事を誰も知らない。貴様が頑張った所で、与えた所で、誰も貴様に何かを与えはしない』ってな。見返りを求めたつもりはない。だけど、あたしがこの世界に居ようが居まいが、変わらない気がした」
本来、あたしはこの世界にはいない予定だった。
だが、任務でこの世界に来た。
頑張ってこの世界を守ってきた。
けど、その事をみんなは知るわけがない。
あたしが守った所で、世界の平穏は残る。
だけど
だけど
与えるだけはもう疲れた。
『じゃあ何?名前がいなくてもいいって言ってるわけ?冗談じゃない』
『確かに、自分の価値は自分で決めるかもしれない。だけど、さっきも言ったろ?僕は名前がいないと困るんだよ。自分が誰からも大切にされてないなんて勝手に思うな』
「椎名……」
必要とされたい。
大切にされたい。
求められたい。
愛されたい。
人間は、そう思う事が当たり前なのだろうか。
あたしは、求める前に与えるべきだと思っていた。
だから、与え続けた。
でも、疲れた。
ならば
ただ求める事よりも、求める心を見捨て、見ないふりをする方が、よっぽど愚かな行為なのだろうか。
椎名は、今はあたしを必要としてくれている。
『日曜、来るだろ?』
でも、求められている事を受け入れる事がこわい。
裏切られるのがこわい。
だけど、それ以上に
「……うん」
それを振り払う事が、もっといけない事なのだろう。
与え上手は受け取り上手。
受け取り下手は与え下手。
あたしは、与えているつもりで、ちゃんと与えられていなかったのかもしれない。
END