第2章 事の始まり
授業が終り、生徒が各々帰路につくために教室の外へ出て行く。奥村燐が出て行くのを見送ってから、しゆうも外へでる。後ろから神木と呼ばれた少女に声を掛けられる。
「湖賀くん、ちょっといいかしら」
「えーと、たしか神木さん? だったよね」
わずかに頷いた神木を見て、しゆうは覚えていて良かった、と内心ほっと息をつく。
「アンタ、虎賀野(こがの)神宮の家の子でしょ?」
「……なんで、そう思うの」
「あたし、巫女の血統なの。大きい神社だったら分かるわ。それに、白虎の神使を持つ神社は虎賀野神宮しかないもの」
神木に言われて、なるほどとつぶやく。しゆうの使役している白虎の神使は虎賀野神宮特有で、狛犬などとは違う。稲荷神を祀っているところの神使は白狐、というくらい独特なのだ。
「……確かに、血筋はそうなんだけど俺の先祖、随分前に虎賀野から分かれてて。あっちのことよく分かんないんだわ。俺、一週間前まで両親と南米にいたし。だから虎賀野について知りたかったならごめんね?」
困ったように笑みを浮かべて、しゆうはその問いを違和感が無い程度に答える。あまり本当のことは言えないのだ、しゆうはこれでも内偵なのだから。
「神木さんも、あまり夜にふらふらしていると危ないから早く帰った方がいいよ」
じゃあね、と言いながらしゆうは踵を返して神木の前から遠ざかる。人目につかないところでメフィスト邸の鍵を取り出し、その鍵で扉を開けて入る。