第3章 一目惚れの概念とは
沈黙が降りそそいだ。聞こえてくるのは波の音と、頻繁に起こる水柱の音だけだ。
「君、これからどないするん?」
重たい沈黙を破ったのは、人魚の方だった。
「君が乗ってた船、木っ端微塵でしょ。ウチみたいに、ここに居座るん?」
「それは嫌だ!」
「じゃあ、ウチと来る?」
「はぁ⁉︎」
思わず素っ頓狂な声を上げて、人魚を見る。彼女は服の中(恐らく胸の間。ってどこしまってんだ!)から一枚の紙切れを取り出した。徐々に動いているから、きっとビブルカードだろう。
「もうすぐウチの家族が、ウチを助けに来る。君行くとこないなら、ウチらの家族にならへん?」
「か、家族って……」
まるでプロポーズされてるみたいだ。でも、嫌ってわけでもない、かも……。
返事に困ってると、人魚はふんわりと笑みを作った。その笑顔を見た瞬間、なぜか思ってしまったんだ。この笑顔を、ずっと見ていたい、と……。
「い、行ってやっても、いいぜ!」
「ふふっ。なら決まり!あ、ウチの名前教えてなかったね。ウチはなまえ。君は?」
「俺はサッチってんだ!よろしくな、なまえ!」
「よろしゅうに。……あ、ちょうど来たみたい」
目を細めて、なまえが海を見る。
霧と水柱に混ざって、白鯨を模した船が、優雅に泳いでいた。