第1章 夢見心地
朝5時台に家を出て、長太郎は朝練に向かった。
いつもよりもずいぶん早い。
それでも、部室の前に立ちドアノブを捻ると、鍵は空いていた。
いつもと違うのは、部室には人がいたことだ。
「おはようございます。」
長太郎は、部室で着替える宍戸にあいさつをした。
「お!鳳。早いな。」
宍戸は少し驚いた顔をした。
「宍戸先輩は、いつもこんなに早く来てるんですか?」
「まぁな、だいたい。」
宍戸にとって、当たり前のことだった。
「何の練習をしてるんですか?」
「あー、走りに出てるぜ。」
宍戸は軽くストレッチをして、部室から出ていく。
全体の朝練で走り込みはしているのに、宍戸先輩はそれ以上に走っているのか。
長太郎はここ最近さくらの好きな人である宍戸に、ちょっとした対抗心が沸いていた。
あの人よりも強くなりたい。
でも、知れば知るほど宍戸は努力の人だった。
長太郎も着替えを済ませて、部室を出た。
いつもなら、サーブの練習をする。
でも今日は、先を歩いていた宍戸を追いかけた。
「俺も一緒に走っていいですか?」
「ああ、いいぜ。ちゃんとついてこいよ?」
そう言って宍戸は笑った。
長太郎は、宍戸はもっと怖くて近寄りにくい人だと思っていた。実際、少しでも手を抜く人には厳しかった。
自分に厳しく、人にも厳しい。
でも、その裏の努力は、確かにすごい量だ。
さくらの好きな人であることは頭から離れていた。
それとは関係なく、長太郎は宍戸を、尊敬し始めていた。
「はぁ、はぁ…」
ようやく他の部員が集まり始めたころ、宍戸のランニングは終わった。
なんとか最後までついていけたが、ぎりぎりだった。
「鳳。」
宍戸は息ひとつ切らさず、長太郎にタオルを投げた。
「ありがとうございます。」
長太郎は流れ出る汗を拭いた。
「焦ることはねぇ。自分のペースで行け。」
「はい。」
地区大会は正レギュラーでないメンバーで予定通り無事勝ち抜け、5月に入った。
次は都大会だった。