第5章 Nigella
「いつのまにか、テニスコートを見ていて鳳くんを探してるし、クッキーは鳳くんのが多くなるし、あの試合の時ずっと鳳くんを見てた。」
雪田さんは俺から目をそらした。
「宍戸先輩のことは、憧れだって気づいたの。」
それって…
「私が好きなのは、鳳くんだった。」
「本当に?」
夢じゃないだろうか。
こんなことあるんだろうか。
「鳳くんのことが、好きです。」
雪田さんは真っ直ぐ見つめてきた。
「ありがとう。俺、嬉しいよ。」
雪田さんを抱きしめた。
嬉しくて力が入った。
「鳳くん、痛いよ!」
「ごめん!」
慌てて離した。
二人で目を合わせて笑った。
これからは、いっぱいこうして二人で笑えるんだ。
笑いが止んで、沈黙のなか見つめあった。
「鳳くん」
雪田さんが何か言おうとしたのを遮った。
「長太郎って、呼んで。」
「長太郎…くん」
雪田さんがそう言った瞬間、キスをした。
唇を離して長太郎は微笑んだ。
「何?」
雪田さんは最初驚いた顔をし、だんだん微笑みに変わった。
一時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「行こう。」
雪田さんは立ち上がり、俺の手を引っ張った。
俺はその手を握りしめた。
屋上の扉を開く前に、雪田さんは立ち止まって俺を見た。
「もうひとつ秘密言っていい?」
「うん。」
「さっきのが、私、ファーストキスなんだ。」
雪田さんは扉を開いた。
「俺もだよ。」
俺の声は扉の向こうのざわめきにかき消されたけど、雪田さんの耳には届いていた。
雪田さんは俺を振り返った。
顔が少し赤くなっている。長太郎も照れ笑いをした。
教室に向かいながら、ふと質問をした。
「クッキーって、宍戸さんの分もあるの?」
「うん。」
「俺が貰っていい?」
「いいよ?」
宍戸さんにあげたくない。
屋上から階段を降りきると、人の多い廊下にでた。
それでも俺は手を離さなかった。
「鳳くんと雪田さんって…」
「あの二人、付き合ってるの?」
すれ違う人に気づかれ、騒がれても気にしない。
だって、雪田さんは俺のものだから。
さくらは渡さないよ。
【終わり】