第1章 夢見心地
ぎりぎり授業の始まる前に鳳くんは教室に入ってきた。
額には汗がまだきらきらしている。
「ごめんなさい、手、振っちゃって…怒られてたよね?」
さくらのせいで鳳が走らされたのが、見ていてわかったから、さくらは鳳の顔を見るなり謝った。
「ううん。俺が集中してなかったから…」
鳳くんはやっぱり笑ってくれる。
「もうすぐ、地区大会なんでしょ?頑張ってね。」
ゆみに聞いた情報だ。
「ああ、そうなんだけど、地区大会には正レギュラーは出ないんだ。」
「そうなの??」
「うん。正レギュラーは関東大会からだよ。」
さすが、200人もの部員を誇るテニス部だ。
「テニス部でレギュラーなのって、本当にすごいことなんだね…」
鳳くんも、宍戸先輩も。
少し遠い存在のように感じた。
鳳くんも、こうして話してくれているけど、あのテニス部のレギュラー…。
「なんだか、私とは別の世界なんだね。」
私はぼそりと呟いた。
「え?」
鳳くんは聞こえなかったらしく、聞き返してきた。
「ううん、なんでもない。」
ちょうどチャイムが鳴ってそれ以上聞かれることはなかった。
いつまでも見てるだけじゃ、嫌だ。
私は宍戸先輩について、本当に全然知らない。
もっと知りたい。
鳳くんには申し訳ないけど、今は鳳くんだけが、私と宍戸先輩を繋げてくれる砦なんだ。