第1章 夢見心地
次の日も、その次の日も、ほぼ毎日、朝練は行われた。
長太郎が球拾いをしながらふと顔をあげると、雪田さんが教室の窓からまたテニスコートを見ていることに気づいた。
前まではそれだけだった。
でも、今は、長太郎とさくらはクラスメートだった。
長太郎が見ていることに気づいたさくらは、小さく手を振った。
突然のことに長太郎は焦ったが、思わず手を振り返した。
「おい、鳳、何してやがる。」
跡部部長に見られていた。
「そんな余裕があるなら、校庭走ってこい。20周だ。」
「…はい。」
チラッと時計を見ると、1限が始まるまであと5分だった。
「おい跡部、それはいくらなんでも無理だろ。10周でいいんじゃねぇか?」
跡部部長の後ろから声がした。宍戸先輩の声だ。
「ふん、なら10周だ。行け。」
「はいっ!」
長太郎は宍戸に軽く頭を下げ、走りに行った。
長太郎は宍戸がそんなことを言ったことに驚いた。
宍戸と言えば、とにかく自分に、そして周囲にも厳しい人だった。
長太郎とはあまり関わりはなく、話したことも数回だった。
宍戸はシングルスの選手で、長太郎はダブルスが主だった。
なんとか朝練が終わった頃に、長太郎は10周を走り終えた。
急いでもうみんな出ていったであろう部室に着替えに行った。
しかし部室に入ると、宍戸が、待っていた。
「ほらよ。」
そういって、ドリンクを渡してくれた。
「ありがとうございます。」
喉が乾いていて、長太郎はゴクゴクと飲んだ。
「鳳は、いつも早く来てサーブの練習してるよな。」
宍戸が口を開いた。
「ええ…一応。」
誰かに知られてると思っていなかった。
「無理するなよ?」
そう言って宍戸は部室を出ていった。
長太郎が先に来てサーブの練習をしていることを知っているなら、宍戸も早く来ているはずだ。
そういえば、朝練に来るといつも部室の鍵が開いているのを思い出した。
てっきり先生が開けているのだと思っていたが、先生は朝練には顔を出さない。
もしかして、宍戸先輩は俺よりも早く来てトレーニングしているのかもしれない。
急いで着替えて教室に走った。