第1章 夢見心地
担任が出ていってから、事務的な質問を雪田さんにした。
彼女はやっぱり、あの優しい微笑みを返してくれた。
ドキッとしたのが顔に出てないか不安だった。
山田さんが入ってきて、俺は自己紹介をしていないことに気づいた。
だって俺は雪田さんのことを前から知っていたから。
雪田さんは俺のことは覚えてないようだった。
別にどうってこと無いと思った。
これから知ってもらえばいい。
そう思ってたけど、そういう訳にもいかないことがわかった。
雪田さんは、宍戸先輩が好きだった。
山田さんに宍戸先輩の名前を聞かれたとき、まさかその宍戸先輩を好きだという山田さんの友達が雪田さんだとは思わなかった。
一瞬、俺は固まってしまった。
あの切ない表情は宍戸先輩を想っていたのだろう。
好きな人をバラされて照れる雪田さんを見ていると、少しでも俺を見て、頼ってほしいという思いが強くて、協力すると言ってしまった。
協力なんて、できるわけない。
長太郎はもう一度ため息をついた。
でも。と、長太郎は心のなかで考えた。
テニスコートを見ている限り、俺もその目に映っているはずだ。
宍戸先輩はきっと雪田さんが見てることに気づいてない。
雪田さんが関わるのは圧倒的に俺の方が多い。
まだチャンスはある。
長太郎はジャージに腕を通し、ラケットを持って外に出た。
準備を一人で始め、終わり次第無人のコートでサーブの練習をする。
サーブを打っていると、冷静になれた。
これから一年間雪田さんは同じクラスにいる。
焦らなくていい。
俺のことを好きになってもらえばいい。