第1章 夢見心地
「はぁ…」
長太郎は部室にはいるとため息をついた。
長太郎のクラスのホームルームは早く終わって、まだ誰も部室に来ていなかった。
鞄を置き、ワイシャツのボタンを外しながら今朝のことを思い出す。
朝練のとき、いつものように彼女は窓からテニスコートを見ていた。
…雪田さくらさん。
最初はただ目についただけだった。
去年の9月頃だった。
あの人、いつも窓から外を見てるなぁって思ってただけだった。
それがある日、委員会の用事で山田さんを探しに、彼女のクラスに立ち寄って、教室の入り口で山田さんを探していたとき、雪田さんが声をかけてくれた。
『誰探してるの?』
首をかしげて優しい口調だった。
俺が山田さんだと言うと、
『いまゆみはいないから、何か伝えとこうか?』
そう言ってくれた。
ただの親切だったし、俺もただ優しい人だって思っただけだった。
彼女がいつも窓から外を見ている人だと気づくのに少し時間がかかった。
いつも窓から外を見る時の顔は、もっと、苦しいような、それでいて儚げな顔だった。
雪田さんがいつも窓から外を見ている人だって気づいてから、彼女のことが気になって仕方がなかった。廊下ですれ違うときには彼女を見てしまった。友達と話す彼女はいつも優しい微笑みを浮かべていた。
―あんなに切ない表情をするなんて、誰も知らないんだろう、俺以外。
なぜ、そんなに悲しい表情で外を眺めているのか、気になって仕方がなかった。
彼女は去年文化祭委員会をしていたから、その連絡のプリントで名前はすぐにわかった。
そして、今日、クラス替え。
クラス分けの掲示を見て、一瞬心臓が止まったと思った。
彼女の名前と、俺の名前が同じクラスに書いてあった。
気がつくとチャイムが鳴っていて、我にかえり、急いで教室に向かった。
これから毎日、教室に行けば雪田さんがいるのだと思うと、胸が高鳴った。
ガラッ
後ろのドアを思わず勢いよく開けてしまい、クラスの視線が集まった。
すぐに彼女を見つけた。
窓側の一番後ろ。
担任に指示された席は、雪田さんの隣だった。
気持ちを落ち着けて、平然を装って席についた。