第2章 願望夢
5月も半ば、教室の半数以上が夏服になった。
さくらはここ数日、テニスコートを見ていて、すこし以前と様子が違うことに気づいていた。
いつものように、授業の始まるぎりぎり前に教室に来る鳳に、さくらは話しかけた。
「あの、鳳くん。」
「ああ、雪田さん。どうしたの?」
席替えが行われて、さくらと鳳はもう隣同士ではなくなっていた。
さくらの席も、窓側では無くなって、テニスコートは放課後しか見れなくなっていた。
さくらは少し言いにくそうに切り出した。
「最近、部活で何かあったの?」
「どうして?」
一瞬鳳くんの目が泳いだ気がした。
「見てて、なんとなくだけど。」
さくらも視線を落とした。
鳳くんは何か、言うか言わないか、迷っているようだったけど、さくらの目をみると、口を開いた。
「実は…。都大会で宍戸先輩負けて、レギュラーから外されたんだ。」
「えっ?」
「監督は負けたらレギュラーから外すっていう方針なんだ。」
さくらは黙りこんでしまった。
「宍戸先輩が外されるなんて、俺も納得はできないんだけど…。」
「でも…あんなに努力してたのに…。」
小さく呟いた。
目が潤ってきたのを感じた。涙が出そうになる。
「教えてくれてありがとう。」
本格的に涙が出る前に、鳳くんにお礼を言って席に戻ろうとした。
「待って。」
背を向けたさくらの手首を鳳は掴んだ。
「泣いてるの?」
さくらは自由なほうの手で涙を拭い、鳳の方を振り返った。
「ちょっと、うるっとしちゃっただけ。」
鳳は何も言わない。
「変だよね、私は宍戸先輩と全く関係ないのに。」
さくらは笑顔をつくって離れようとした。
手首を掴む力は弱くて、するりと手は抜けた。
「チャイム鳴っちゃうし、席戻るね。」
そう言って、また背を向けた。
「あ、うん。ごめん。」
鳳くんはやっと口を開いた。
さくらは席について考えた。
私には何もできない。
宍戸先輩の知り合いでも友達でもない。
チームメイトでもない。恋人でもない。
励ますことはできない。
声をかけることだってできない。
見てることしかできない。
きっと辛い時なのに…。