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闇の底から

第9章 邂逅


京都に着いたのは次の日である。変な時間に掛かってきた電話に呼応するように宿を飛び出したものの終電と言う名のタイムリミットに阻まれ、一夜を明かし、始発に乗り込んだ。
K大学附属病院の特別室に伯父は入院しているらしい。
ノックをすると、中からカチャリとロックを外す音がした。相楽の家お決まりの合言葉ならぬ合図で入室が許された。
「伯父様…凜にございます。」
眠っている伯父に一礼し、伯母に説明を求める。
眠り続けてはや1週間で変化もないし凜には黙っててくれと言われていたけどもう無理だったわ、と明かす伯母。その眼からはなぜ本家の自分達の子を差し置いて分家のこの子を跡継ぎにしたのかという眼差しがひしひしと感じられる。居心地が悪い。なにも私が悪いわけではない。本家の跡取り候補たちが驕るから…名前に胡座をかいて努力をしないから。野心が欠けているからこうなったまでのことだ。そんな思考回路をおくびにも出さず、そうでしたか、と頷く。
部屋には心電図と液を流し込む装置が置かれている。まだ若いのに亡き祖母と同じ機械にお世話になっている伯父が気の毒で仕方がなかった。
「そういえば、要さん、奏さん、馨さんは…?」
本家の子供たちの名前を上げると伯母は着物の帯の辺りにすっと手を遣り、襟元を正して立ち上がった。
ホールにいますよ、会って行きますか?小首を傾げ、ゆるりと口角を上げる。
タイミングを計ったかのようにドアが数回ノックされる。
「お入りなさい」一礼して部屋の奥に視線を遣ったあと、ニヤリと口角を上げたのは相楽本家の長女、奏である。
「お父様もこれまでかしら?皮肉なものよね…財産も名声も欲しいままにしながら、思い通りにならないのは我が身と我が子だなんて。」
今年成人を迎え、耳には相楽家女子が成人すると作る片耳イヤリングが光る。
娘を窘めることもなしに、伯母は要さんと馨は?と奏に問いかける。
「おっ!!凜じゃないか。医者の卵、S大医学科一回生の女神様。」
ドアをノックもせずに蹴破る勢いで入ってきたこの人こそ要である。
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