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闇の底から

第8章 光と闇


「なあ、凜…やっぱり諦められねえよ」
顔を落とした自分からは均整のとれた綺麗な脚しか見えない。と思ったらいきなり顔が降りてきた。
と思ったら頬を撫でられた。ー先輩、泣いてますよー
その声で初めて自分の頬を伝う涙に気づく。
「オレはずうっと輝の影だったんだ。今も、そして多分これか『ああっっ!!!』」
突然凜は渉を遮った。そして悪戯っぽく笑う。
「実は……」
告げられた内容に頭が付いて行かず、はあ?と遠慮会釈ない声が出てしまう。
「許嫁だと?しかもあの色仕掛け薔薇野郎とか?」
「…なんか卑猥な物言いだと感じるのは気のせい?」
「いーや、間違ってねぇわざとだ!」
二人はそこでこらえきれなくなったのか大笑いしてしゃっくりの発作に襲われたのだとか。

「あー、もしもし彩葉ちゃん?」
凜は荷物を全部畳に広げた状態で沖縄旅行中だという彩葉に電話をかけていた。
「ちゃんとかかってくれたみたい。」
『ああそうか。それは良かった。荷物を漁るなんてベタで下衆のやることだと半信半疑だったが今回は正しかったみたいだな。』
皆さんご存知、真島瑞季の仕業である。
「いやぁ、外に出た甲斐があったよ。」
お土産よろしくね、とお互いに交わし合い、電話を切った。

間髪を入れず着信音が鳴る。
表示された名前に驚き、急いで応答ボタンを押した。
「はい、凜にございます。」
「ああやっと出てくれたわ。今すぐ京へ帰ってらっしゃい。棟梁様が倒れてK大附属に救急搬送されたの。今家を支えるのは得宗のあなたよ。いいわね?」
それだけで通話は切れた。
S大医学部への入学を我が子のように喜んでくれた伯父さんが?
広げ放題広げた荷物をかばんにしまう…しまおうとするが手が震えて投げ入れてるも同然になっている。
慌ててドアを開けて外に出ようとしたがそれは叶わなかった。

「「よぉ、相楽家得宗様」」
片や茶髪、片や金髪。同じ背丈に同じ顔。
だがそれに応じるだけの余裕はなく、脚から崩れて座り込んでしまった。
蘇るのは一家虐殺のあの日の記憶。
鋭い頭痛がこめかみからこめかみへ突き抜け、凜はあっさりと意識を手放してしまった。
『オマエは未来永劫オレのものだ。誰にも邪魔させはしない。覚悟しておけ』
両親を殺めた卑劣漢は凜の首筋を吸い上げた。ピリッとした痛みが走り、その感触は徐々に下に下にと降りてきていた。
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