• テキストサイズ

闇の底から

第8章 光と闇


だけどそこに辿り着くにはとんでもない山が待ち構えていた。
「渉…あなたの双子のお兄ちゃんの輝よ」
ある日家を訪ねてきた男の子は自分と背格好も顔も同じだった。あえて違うことを指摘するならその子の纏う雰囲気が酷く厭世的だったことくらいだ。
兄弟がいないと思っていた渉は最初こそ輝を疎ましく思い遠ざけていたが、話すうちにこれほどに話が合う人間はいない、と意気投合するようになった。
しかし2人は戸籍上従兄弟に編成されている。

高校はあえて青海を選んだ。センター試験で大コケしてS大学の農学部に入り、学士入学を志した。輝が医学科に入ったと聞いたときは心底驚いて。
家庭教師を始めたことにさらに驚いて。それも里湖さんの娘で虹平の姉の凜を教えていると聞いたときはしばらく立ち上がれなかった。
双子なのにここまで違うのかと思った後、渉は髪を染めた。自分の中に巣食う闇を照らすような色に。

「お前が渉か。確かに輝が金髪にしたらこうなるな。」
自称、輝の彼女の玲は初対面から酷かった。いつ会っても輝が、輝が、と聞かされる身にもなってほしいと切に願うほどで。気がつけば玲を嫌悪している渉がいた。

学士編入試験に通り、念願の医学科に編入してからは学業の傍ら、人脈を広げるべく軽音楽部に入り、サッカー部の輝と距離を置き続けた。
学部長の息子というレッテルはどこへ行っても剥がれず、永久粘着だからそれを逆に盾に取ったりもした。

「一回生の女神だ」
親父の一言で壇上からひっくり返りそうになったのを支えに行ったのは反射だった。だから
「東條先生こんにちは」と言われたときは心底驚いた。東條先生って誰だ。無意識に外れた手から逃れたその子は渉を見てひどく怯えた。顔を見て赤面されたことはあっても怯えられたことはなかっただけにひどいショックを受けた。挙句人違いときた。
その後何を言ったかの詳細を覚えていないが、その子は怒り出した。湧き上がるような怒りを見て自分が地雷を踏んだことを知る。予想の斜め上を行く発言に目を剥いたとき輝が来て謎が解けた。
彼女こそ里湖さんの娘、虹平の姉の凜…
里湖さんそっくりの強い目。綺麗な弧を描く口角。
この子を落としたい。その笑顔があったら他には何もいらない、だなんて思ってしまうほどにその光に惹かれた。自分が闇だから。光に近づきたい。手を伸ばしたい。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp