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闇の底から

第8章 光と闇


同時刻サッカー部宿舎では、輝が凜を送っていったとのことで恐ろしく機嫌の悪い玲が玄関に待ち構えていた。
でもそんな機嫌の悪さも
「玲、ただいま」という輝の笑顔で吹き飛んでしまった。全く不思議なものだ。輝の背後から見覚えのある女子が入ってくる。
「瑞季、ひっどい顔してんねー。さあさ、上がって?」
「っ…玲さんっ」それだけ呟いて瑞季は玄関に崩れ落ちた。涙を拭うこともせずただただ流れるままに。
瑞季は自分の中の真っ黒な部分が明るみに出ていることに気付いていた。
「いいのよ真っ黒でもなんでも。だって人間なんだから。私の嫉妬も、あなたの行き場のない怒りもあって当然。それとどう闘うかじゃないの?」
瑞季はポケットを握りしめる。凜の荷物の中から出てきた"定期会のお知らせ"読んで愕然とした。
K大医学科の一回生とつるんで何かをしようとしているらしいことが辛うじて読み取れる内容だが、空恐ろしくなった。震える手で握りしめていた書類を渡す。
開いた玲も、背後から覗き込んだ輝も愕然とした。
紙の背後には大きく「残念。ハズレ!!」と大きく書かれていたのだ。


その昔、公立小に通っていたある少年は忘れられない出会いをした。ある日帰ってくるとリビングには母さんと話をする知らない女の人と、その人に抱きかかえられた小さな男の子がいた。
「渉?挨拶なさい。私の大学時代の友達の里湖よ。」
「こんにちは、渉君。この子は虹平。よろしくね」
柔らかい微笑みに魅せられた。
それ以降たまに里湖さんが来た時には虹平とも遊んだ。といっても虹平は1歳にもなってない小さな赤ん坊だった。
しかし虹平は思い病気を患い、闘病生活を余儀なくされた。父さんのいる大学病院に入院してからはオレもよく見舞いに行った。しかしその日々も長くは続かなかった。
なんであんな小さな子がこんな目に遭っている?自分よりずっと弱くて、小さくて、キラキラした目をしたこの子が…。
泣き崩れる里湖さん。その肩を抱く旦那さん。
「こーへー、かえってこいよぉ…」
その声に心を掴まれた。虹平の姉や兄がいた。
2人はおばあさんらしき人に抱きしめられていた。
小さな棺桶に収まりきらないほどの切り花が納められて小窓が閉められた。
その時決めたんだ。オレはこんな思いをする人を少しでも減らしたい。病気に立ち向かう小さい子の力になる、と。
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